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ブザーがけたたましく鳴り、ベルトコンベアが停止した。
「だめだ」とあなたは言った。「これは何かがおかしい。絶対におかしい」
扉が開いてHIKARUが現れた。こんどはちょっと怒っていた。
「おいおい、頼むよ。どうしたんだ。体調が悪いなら医務室に行けよ。薬代と医者代とライン止めた損害賠償で今月分の給料はなしだろうが、おまえのせいだから仕方ないな。完膚なきまでにおまえのせいだから仕方ないな。でも命が大事だよ。命はたったひとつしかないから、大切にね。自殺はだめだよっ。親からもらったたったひとつのかけがえのない命だもん。犬畜生ほどの価値しかない命でも、命は命だからねっ」
あなたは立ち上がり、HIKARUの衣服の襟元をつかんで、彼が入ってきた扉に押しつけた。
「壁ドンだぁ~」
「おい、これ、どうなってんだ? おれは食用菊の……いや、そもそもなんなんだ、これは? ここはどこだ? おまえは誰だ?」
「それについては、おれに聞いたところで答えはない」とHIKARUは答えた。低いトーンの声だった。「ゲムスパの編集部に聞いてもらわなきゃな」
「ゲムスパ? あの、おまえが何かわけのわからん漫画を描いてる、低級ゲームサイトか? それとこの状況とに、何の関係がある?」
「おれにしてみても、この状況とゲムスパに関係があること以上のことはわからん」
「それにしてもなぜその関係を知っている?」
「おれとおまえの立場が違うからだろうな。なあ、いいかげん離してくれよ」
「すまない」
あなたはHIKARUの襟元から手を離し、推理をはじめた。
「状況を整理させてくれ。おれはたしか……昨日、ネットを見ていたと思うんだが、気がついたらここにいた。よくわからないんだが、三年間も食用菊を置く仕事をやらされていた記憶がある。だが、赤いボタンなんて、その三年間の記憶のどこにもなかったように思える。急にぱっと現れたみたいな感じがした」
「うむ」
「何かがおかしい。どうなってるんだ?」
「だからおれにはわからんと言ってるだろう。べつのことを聞け」
「ここはどこだ?」
「千葉県沿岸部に位置する鮮魚加工工場の一角だ。おもにスーパーマーケットに卸すための鮮魚の加工をやっている」
「刺身の盛り合わせに食用菊を置く仕事なんてこの世に存在していないはずなんだ」あなたは停止したベルトコンベアを見ながら言った。「インターネットで読んだことがある。なにかこの設定には作為めいたものが感じられる」
「気づいたスパか」とHIKARUは言った。
18.あなたはHIKARUのほうを見た。
17.シフトの終わりまで労働を続けた。