
1996年8月2日、リバーヒルソフトからPS1向けに『オーバーブラッド(OverBlood)』が発売されました。
本作は、記憶を失った主人公が謎の地下研究施設からの脱出を目指す、SFホラー要素を取り入れた3Dアクティブアドベンチャーゲームです。

舞台となるのは西暦2095年。主人公の「ラズ・カーシ」(32歳)は、コールドスリープから目覚めたものの、自分が何者なのか、なぜ研究施設に閉じ込められているのかも分からない状態。
そんな彼は、施設内で出会った小型ロボット「ピポ」や謎の女性と協力しながら、地下研究所からの脱出を図りながら、恐ろしい人体実験の真相に迫ります。

本作が発売された1996年といえば、記念碑的作品の『バイオハザード』が登場し、サバイバルホラーというジャンルが大きな注目を集め始めた時期でもありました。
しかし、『オーバーブラッド』は、フルポリゴンによる3D空間の探索や、SFミステリーを重視したストーリーなど、『バイオ』とは異なる方向性を持った作品でした。

そして何より印象的なのが、渋い声と髭面が特徴的な主人公ラズと、奇妙な電子音を発する小さなAIロボットという、なんとも異色のコンビです。

ハードなSFホラーの設定とは裏腹に、どこか間の抜けたキャラクターの動きや、突然訪れる理不尽ゲームオーバーとシビアな難易度など、独特のシステムを備えていました。
本稿では、その個性的で濃厚なキャラクターやゲームシステム、90年代SFホラーとしての魅力を振り返ってみたいと思います。
◆渋い声に髭面、妙に濃い主人公「ラズ・カーシ」の魅力

物語は、西暦2095年に発生した大地震によって、地下研究施設のコールドスリープ装置から一人の男が目覚めるところから始まります。
主人公のラズ・カーシは、自分の名前すら思い出せない記憶喪失の状態。そんな彼に与えられた最初の試練は、極端な低温状態にある部屋から、凍死する前に脱出することです。

ゲーム開始直後から周囲の状況を確認し、適切な操作を行わなければゲームオーバーになってしまうという、なかなか厳しい導入が待ち受けています。
そんな過酷な状況に置かれているラズですが、そのキャラクターは実に個性的。無精髭を蓄えた男臭い風貌に、重厚で渋みのある声が組み合わさり、いかにも80~90年代のSFアクション映画に登場しそうな見た目の主人公です。
ちなみにラズの日本語ボイスは、「ちびまる子ちゃん」のヒロシ役でも著名な声優の屋良有作さんが担当しています。

また印象的なのが、どこか大げさな身振り手振りや独特の立ち姿でしょう。当時のポリゴンによるぎこちない動作も相まって、深刻な状況のはずなのに、ユーモラスに見えてしまう場面も少なくありません。


ラズ自身は決してふざけているわけではなく、研究施設の謎を解き明かそうと真剣に行動しています。しかし、変に腰を落としたポーズや移動中の走り方、障害物に引っかかってしまう不器用な動きが、意図せずコミカルな印象を与えていたりもするのです。

その一方で、彼は未知の状況にも臆せず行動する頼もしさや、仲間を気遣う人間味も備えています。
いわゆる美形のヒーローとは異なる「オジサン」キャラのラズですが、少々暑苦しくとも親しみやすく愛されるべき主人公として、強い存在感を放っていました。
◆ヘンテコなのに頼れる!癒しの小型ロボット「ピポ」との珍道中

そんなラズの唯一無二の相棒として登場するのが、「ピポ」。ピポは高性能なAIを搭載した小型ロボットで、「ピーポー」「ピポ」といった電子音を発することから、ラズによって名付けられました。

施設内で発見したロボットを、ラズがマイクロチップを使って起動させることで、二人の奇妙な運命共同体が誕生します。その小さな身体と特徴的な動きは、無骨なSFホラーの世界観の中でも、ひときわ異彩を放っています。

頼もしい戦闘用ロボットとは程遠い印象ですが、実際のプレイでは探索に欠かせない重要な存在です。
例えば本作では、プレイヤーがラズとピポを切り替えられるシステムを採用しており、ラズには操作できないコンピューター端末へアクセスしたり、人間では入れない狭い場所を移動したりと、ピポならではの能力を利用することで、施設内の仕掛けを解くことができます。


単なる同行キャラクターではなく、二人の能力を使い分けること自体がゲームシステムに組み込まれているのです。
また、ラズとピポの組み合わせが面白いのは、二人のキャラクター性が対照的なこと。髭面で野太い声の中年男性を思わせるラズに対し、ピポは小さな身体で電子音を鳴らす、なんとも愛嬌のある存在です。

言葉による会話が成立しないにもかかわらず、行動やリアクションからは不思議と相棒同士の関係が感じられます。
時にはラズのピンチを救うため、果敢に敵へ攻撃する場面も。人間がほとんど姿を消した研究施設の中で、ピポの存在はプレイヤーにとっても心強いものとなるでしょう。

本作は記憶喪失や人体実験を扱うシリアスなSFホラーですが、ラズとピポの関係によって、単なる恐怖一辺倒ではない、少しユーモラスで温かみのある冒険が描かれているのです。
◆人体実験、遺伝子操作、クローン─90年代SFホラーの世界観

本作の舞台となるのは、謎の地下研究施設「リステラ研究所」です。本作のストーリーの中心にあるのが、遺伝子操作や人体実験、そしてクローン技術といったSF的なテーマです。

研究所では、軍事利用を目的とする強化兵士の開発が進められており、その過程で「ARNAウイルス」と呼ばれる、致死率100%の危険なウイルスが研究されていました。しかし、実験は多くの犠牲を生み、被験者の怪物化など、深刻な事態を引き起こしていたのです。

こうした設定から連想されるのが、1980~90年代のハリウッド製SFホラー映画です。
例えば「エイリアン」シリーズに見られる、科学技術や企業の思惑によって引き起こされる惨劇。あるいは古典的名作「遊星からの物体X」のような、閉鎖空間で未知の生命体への恐怖が広がっていく展開など、それらの作品と共通するモチーフが数多く見られます。

物語の途中では、ラズと同じく記憶を失った女性「ミリィ・アズレイ」も登場。彼女との出会いを通じて、研究所の実態だけでなく、主人公自身の過去にも疑惑が生まれていきます。
単なる怪物退治では終わらないSFサスペンスとして、本格的なストーリーが展開されるのが魅力の一つです。
◆『バイオ』とは何が違う?独自の探索と戦闘システム

本作は、同じ1996年に発売されたホラーゲームとして、『バイオ』と比較されることもあります。どちらも閉鎖された建物を探索し、アイテムの収集や謎解きを通じて行動範囲を広げながら、施設に隠された秘密を解き明かしていく構成となっています。
しかし、両作品のゲームデザインには大きく異なる部分があります。

まず注目したいのが、3D空間の表現方法です。初代『バイオ』では、あらかじめ描画された背景画像にポリゴンのキャラクターを配置するいわゆる「プリレンダ方式」で、映画的な画面構成を実現していました。
一方、『オーバーブラッド』は、背景を含む施設内部をリアルタイムの3Dポリゴンで構築しています。本作のフル3Dによる探索システムを語るうえで見逃せないのが、リバーヒルソフトが1994年に3DO向けに発売した『ドクターハウザー』の存在です。同作もリアルタイムで描画される3D空間の探索を特徴としており、『オーバーブラッド』にはその設計思想が受け継がれています。
また、本作には後にレベルファイブを設立する日野晃博氏がリードプログラマーとして参加していました。1990年代の3Dアドベンチャーゲームの試行錯誤を知るうえでも、興味深い作品といえるでしょう。

さらに本作は、固定視点に加えて、主人公を追従する視点や一人称視点への切り替えも可能という、当時としては珍しいほどオプションが充実していました。
通常の探索ではキャラクターを見ながら移動し、細かな設備を調べたい場合には主観視点を利用するなど、状況に応じて周囲を確認できます。

また、本作では「しゃがむ」、「ジャンプ」、「走る」、「(物体を)押す」など多彩な探索行動が可能で、『バイオ』とは異なりアクション要素が強めの作品でした。

謎解きの内容も比較的現実的です。機械設備を操作したり、道具を利用して通路を確保したりと、研究施設という舞台に即した仕掛けが数多く用意されています。ピポとの協力も含め、アドベンチャーゲームとしての性格が強い作品でもあるでしょう。

さて戦闘に関しては、正直なところ『バイオ』のように洗練されていません。というのも、常に武器を構えて敵を倒していくシステムではなく、戦闘は特定のイベントで発生する方式となっており、ゲームプレイは探索に重点が置かれています。
しかも、『バイオ』以上に弾薬アイテムが限られているため、雑魚級の敵は基本「殴って」倒すのがセオリーで、あまり面白さを感じられません。

また、一番大事なクリーチャーデザインに魅力がない事や、攻撃のモーションも少なく、ただ向かってくるだけであったりと、戦闘の緊張感や楽しさに欠けるのが本作の残念なところです。
◆独特な世界観が魅力のSFアドベンチャーゲーム

本作は、完成度という点で『バイオハザード』と肩を並べる作品だったとは言えません。操作性やアクション部分には粗削りなところが多く、ゲーム全体のボリュームも決して大きくありませんでした。
しかし、1996年という時代に、フル3Dの研究施設を探索するアドベンチャーを実現し、人体実験やクローンを題材としたSFミステリーを展開したことは、評価すべき挑戦だったと思います。

そして何より、ラズとピポという異色のコンビが、本作に独自の魅力を与えていました。
本作は、単なる『バイオ』の亜流ではなく、90年代のSFホラー映画を思わせる世界観、アドベンチャーゲームとしての本格的な謎解き、そしてラズとピポの個性的なキャラクターが融合し、ほかの作品では味わえない、プレイヤーの記憶に残るような独自の存在感を放つ一作です。















