暑い夏の盛りを越え、もう秋の入り口が見える9月になりました。
9月といえば農作物の収穫、収穫といえば豊作を神に感謝する神楽の時節。そして神楽といえば『祇(くにつがみ):Path of the Goddess(以下、祇)』。
本作は舞をモチーフにした華麗なアクションと、荒々しい怪物「畏哭」から巫女を守る戦略を組み合わせた、日本の芸能文化のエッセンスを強く感じさせる作品です。
日本の伝統の中でも指折りの派手さを持つ神楽は、宮中の儀式をベースに民間に広がるにつれて能や歌舞伎の要素が盛り込まれ、全国に多彩な流派が存在します。神楽は神事として様々な約束事があり、それを知っておくと『祇』に込められた様式美が見えてくるでしょう。
なお、本稿では筆者の手元にある広島・安芸高田神楽の資料を参照しており、あくまでも解釈のひとつである旨をご了承ください。

神楽とは文字通り、“神様を楽しませる”芸能です。そのため、本番には必ず神様をお招きするための手続きが行われます。
その場を清め、邪気払いを入念に行う舞を「神祇舞(儀式舞)」と呼び、派手で賑やかなエンタメ演目の「能舞」と区別されます。神祇舞は公演前に行う、神様の入場案内といったところでしょうか。
神楽奉納中は演者も観客も、その場に神様が存在していることを前提にした振る舞いが求められます。楽器を演奏する「楽人」は始めと終わりに、観客だけでなく社や神棚に向けても礼をします。

ここで使われるのが、「御幣(ごへい)」や榊など霊力を持つ道具です。これらを振ることで邪気を払い、能舞の演目中でも鬼に対する切り札としての効果があります。
反対に扇は人間の武勇を表しており、登場時に両方を持っている英雄は、霊的な力と武勇を兼ね備えたスーパーヒーローと分かるのです。
神祇舞で場を整えた後は、神様と人が一緒に鑑賞して楽しむ「能舞」が舞われます。鬼や怪物と戦うアクションエンターテインメントが繰り広げられ、動きも装飾もとことん派手に。現代では電飾やスモークも用いられ、実際に目にすれば誰もがその熱量に驚くことでしょう。

神楽にとって、「舞」とは霊的な力を発揮する儀式のひとつであり、「踊り」とは決して言ってはならないという決まりがあります。
陰陽道には足踏みによって邪気払いをする「反閇」があり、神楽における舞の動きそのものが、邪気払いや神憑りの意味を持っているのです。
鬼以外の役者は舞台に上がる時、舞を終える時に必ず「じんがく」と呼ばれる所作を行い、それによって陰陽の力を借りていると考えられています。安芸高田の場合は両手を左右に大きく振り上げる所作となっています。
5つのパートに分けられる能舞
能舞はバトルアクションが主体なので、善の主人公が登場し、そこに強敵の魍魎が襲い掛かるのが基本。全体は大まかに5つのパートに分けられます。

「道行き」
状況説明が行われるイントロダクションです。主人公などの道中を示し、役者が舞台に上がってきて、自分はどこから来てこれから何をしようとしているか、簡単に名乗ってから舞に入ります。

「さぐり」
敵対する鬼達が登場する煽りの場面。外連味がある仕掛けなどを使い、鬼の妖術や荒々しさを見せつけて、これからどんな悪さをするか、悪役側の名乗りを上げます。
「からみ」
善悪が対峙して「成敗いたす」「我が力を見るが良い」など、戦いの前の言葉の応酬とにらみ合い。

「立ち合い」
荒々しく戦うアクションシーン。神楽一番の見せ所で、くるくると回る「平舞い」で斬り結ぶ動きはゲームにも取り入れられました。

「嬉し舞」
敵を倒した喜びを表すエンディングのシーン。
『祇』の1ステージは昼夜に分かれており、昼間は準備として神祇舞と道行き、夜は「からみ」と立ち合いの様式を踏襲しています。このフォーマット、なんとなく覚えがあるような気がしませんか?
そう、現代の特撮やヒーローアニメにおけるお約束の流れによく似ていますね。神楽とは神様と村人が一緒に楽しむ、まさにヒーローショーなのです。
安芸高田市では毎年「神楽甲子園」が行われ、次代の担い手となる全国の高校生神楽団が集います。八岐大蛇や土蜘蛛、酒呑童子などお馴染みのヴィランたちが躍動し、初めて見る人でもすぐに楽しめるでしょう。ゲームで興味を持った人は、ぜひ地元の神楽奉納にも足を運んでみてください。
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